『ポストコロナの社会学へ
――コロナ危機・地球環境・グローバル化・新生活様式』
は し が き
コロナ危機――新型コロナウィルス感染症Covid-19のパンデミックによって世界に引き起こされた危機――は、まだ収束のメドが立っていないが、それによってこの2年ほどのあいだに、私たちの社会について重大なことが分かってきていると思う。
私たちは、当然のことながら、というよりもそれよりもはるかに強く、私たちの身体に拘束されており、その身体も、想像よりもはるかに強く、眼に見えて破壊されてきている地球[環境]の影響を受けている。そして、この破壊の原因はこの5世紀ほどのあいだの私たちの歴史にあり、私たちの社会のあり方はその歴史によって決められている。社会学は、そのことを具体的に示し、社会的な生き物としての私たちに、私たち人類の破滅を防ぐための行動を取るよう訴えなければならない。
本書は、このような思いで続けられてきた研究会の所産である。本書の前身である『21世紀社会変動の社会学へ』と『主権者と歴史認識の社会学へ』を出したとき、私たちはまだ、正直に言ってそこまで分かっていなかった。それほど、このパンデミックの経験は重いと思う。その重さを説くために、私たちは、人間が限界状況のなかにあることを説くカール・ヤスパースの実存哲学や、具体的な限界状況での人の生き方を追求したアルベール・カミュの小説『ペスト』などを引き合いに出してきたが、ことはそうした哲学や小説の例示で済む程度のものではなさそうだ。
そのために私たちは、身体、地球、歴史、社会を概観したあと、日本の社会学を振り返り(庄司)、ポストウェスタン社会学の声を受け止めたうえで(矢澤)、生活世界におりて、日本を中心とする教育問題と(細田)、社会主義崩壊後新生ロシアのリアルな生活世界を把握する(石川)。そのうえで、地球環境問題を検討し(池田)、グローバル化を生産パラダイムからあらためて総体的にとらえ直したうえで(武川)、最後に、身体、地球、歴史、社会を接続して考えた場合の、私たちのこれからの生活の方向を見出そうと思う(庄司)。
私たちは、コロナの先を見据えながら、人類という種の生き残る展望とそれに見合った生き方を示さなくてはならない。そんな大それたことができるのだろうか、と私たちも思う。しかしできなければ、私たちの子供の世代や孫の世代はじっさいにもっと大変な危機に見舞われるかもしれない。そう思いながら、とにかく全力を尽くす。これはそのための一つの手がかりである。
2022年2月
編者
ポストコロナの社会学へ
――コロナ危機・グローバル化・地球環境・新生活様式
は し が き
《現実を直視する》
生と死の社会学――ポストコロナの身体へ
庄司 興吉
《最大の文脈のなかで》
地球環境と地球社会――ポストコロナの地球へ
庄司 興吉
《歴史を振り返る》
グローバル化を見直す――ポストコロナの歴史へ
庄司 興吉
《現代社会のただなかで》
国際社会の実態と課題――ポストコロナの社会へ
庄司 興吉
《日本の社会[科]学をふまえる》
日本のマルクス主義と近代主義――ポストコロナ社会学の前提として
庄司 興吉
《日本社会学の進むべき方向》
ポストウェスタン・ソシオロジーと日本の社会学――一つの問題提起
矢澤 修次郎
《身近なところからの社会改革》
コロナ状況下での学校――広がる教育格差とポストコロナ期の学び
細田 満和子
《新生の可能性を見いだす》
ロシア人の生活世界――社会主義期、体制移行期、そして現在
石川 晃弘
《地球環境問題に対応する》
気候変動と近代のパンドラの箱――歴史の累積効果を現在で解く
池田 和弘
《グローバル化の新局面へ》
グローバル化の新局面――生産パラダイムからのアプローチ
武川 正吾
《ポストコロナの新生活様式》
身体・地球・歴史・社会の接続へ――新生活の方向
庄司 興吉